本書は1994年刊行された「老いと死から逃げない生き方」を改題し、加筆・修正したものです。

 まえがき

 「死に方」は「生き方」です。従って、「死に方上手」は、上手な死に方ということではありません。死ぬまで上手に充実した人生を送るにはどうしたらいいかを、考えましょうということです。
 これまで、日本人は「死」を嫌い、考えないように避けてきました。しかし、「生」の充実のためには、「死の助け」が必要なのです。ちょうど、甘味を増すために塩がいるように。
 繁殖を終えたら(定年、還暦頃)、「死を視野に」入れて生きれば、その後の人生は、随分と締まったものになるはずです。
 今の年寄りは、あまりにも発達したといわれる近代医学に、過大の期待を抱きすぎています。どんな状態でも、病院へ行きさえすればなんとかなるとの思いを強く感じます。
 しかし、年寄りの不具合は、老化か老化がらみに因るものが大半です。残念ながら、近代医学に、年とったものを若返らせる力はありません。だとすれば、いまさら大病院の専門医のところへ押しかけてみたところで、すっかり治ることなどありえません。
「治らないものは治らなくてよい」と明(あき)らめ、「治す」ことを諦めて悪足掻(わるあが)きを止めると、生きるのがとても楽になるはずです。
 もちろん、医療は、人生を安楽に過ごすために利用する一つの手段です。従って、完全に治したいなどという大それた望みではなく、少しでも楽にという気持ちで利用されるのは構いません。
 年寄りは、「老い」にはこだわらず寄り添い、「病」にはとらわれず連れ添う。「健康」には振り回されず、「医療」は、あくまで限定利用を心がけ、「死に時」が来たら、まだ早いなどとぐずらないで素直に従うというのが、上手な生き方だと思います。
 それには、繁殖を終えたら「死を視野に」入れて、「明日死んでもいい生き方」をしているかを、折に触れて点検し、修正を繰り返しながら、その日まで生きることでしょう。
 また、死にかけてから、いろいろな延命手段を講じられても、嬉しくもありがたくもありません。そこで本書では、繁殖を終えた者に対しては、ふだんから 「死を視野に」入れたかかわり方を提案するとともに、これまで、誰も触れてこなかった「延命介護」の問題に斬り込んでみました。
 勝手なことを書き連ねましたが、読者諸兄姉に、いくばくかでも参考になりましたら、望外の喜びです。